|
神楽坂建築塾 第九期 修了制作 |
空間恐怖ーその紹介と提言 |
|
〜精神症状を手掛かりに空間の快適性をさぐる〜 |
|
三宅 永 |
|
A4論文/16ページ |
||
|
5.精神疾患の方の感覚に配慮することによって得られるもの |
||
|
これまで空間恐怖の方にとって快適な空間について考察してきた。しかし、ふりかえってみると、それは一般の方にとって快適な空間、と相当重なるようにも考えられる。 さて、ここで、こういった症状を持つ方への理解について述べておきたい。一般的に精神疾患、あるいは精神症状については、ただ不可解、あるいは理解不能と考えられがちである。しかし、実際には、おそらく通常の人間の誰もが無意識に持っている不安が、(過剰に)意識されてしまっているだけの状態と考えられる。パニック障害にしても、根底には窒息への過剰な恐れがあると仮定されるが、考えてみると、通常に機能していれば人間の生存に必要な感覚なのである。その感覚が過剰に意識され、かつ窒息下でもないのに、そのセンサーが反応している(誤作動している)というところだけが、通常人と、病気を持つ人との違いなわけである。 とするならば、精神症状を持つ方を、「人間が根底に持っている不安があらわになっている、感受性の高い人」と捉えることが可能と思われる。そのため、精神症状を持つ人の感覚に注目し、その不安を軽減するような対応を考えた場合、それはそのまま、通常の人の、無意識のうちの不安を軽減する対応となる。であるから、精神症状を持つ人を快適にさせるような空間を考えていくことは、そのまま、一般人にとっても快適な空間をつくることにつながっていくのではないだろうか? ところで、身体的なハンディキャップを持つ方に関しては、すでに、それに配慮したデザインがなされている。そしてそれが健康な人にとっても有益なものとなっている例もある。今後は精神的なハンディキャップを持つ方に対しても、同様な配慮が望まれる。
|
||
|
■おわりに |
||
|
1 空間恐怖の方の症状と、その苦手とする空間、好む空間について述べた。 2 空間恐怖の方にとって望ましい空間の1例として、菅野の家をあげた。また、菅野の家で代表される日本家屋の、エッセンスを取り入れた建築は現在でも可能と思われた。 3 「身体的なハンディキャップがある方」だけでなく、「精神的なハンディキャップのある方」に着目することによって、誰にとっても快適な空間をつくるヒントが得られる可能性がある。
注)本論では、agoraphobiaの訳語として「空間恐怖」を用いた。医学的には、近年では「広場恐怖」と訳されることが多い。代表的な診断基準である、ICD-10やDSM-「でも「広場恐怖」と訳されている。 しかし、実際の臨床場面では、「開放空間に対する恐怖」を訴える事例は稀であり、我が国の臨床家は「広場恐怖」という訳語を、多少の違和感を持ちながら用いていると思われる。 特に、本論では趣旨が医学上の議論でなく、建築空間における症状の意味付け、といったものなので、無用な混乱を避けるために、塩入*(6)や、荒木*(7)に従って「空間恐怖」の訳語を用いた。 さらに、理解を明瞭にするために、「閉所恐怖とほぼ同一」、とも述べたが、これは古く、Janet.P.*(8)も述べていることでもあり、多くの臨床家の実感には即していると思われる。
参考文献 1)アンソニー・ヴィドラー:歪んだ建築空間,青土社.p43−96,2006 2)山田茂人:パニック障害の診断と治療,精神科6(4).p338-343,2005 3)山田久美子:パニック障害とは何か−疫学的調査から,こころの科学107.p45-49,2003 4)デービッド・J・ナット他:パニック障害のすべて,日本評論社.P65−105,2001 5)海老谷尚彦:植物による閉鎖空間の環境浄化,筑波大学大学院修士論文,2005 6)塩入俊樹ほか:恐慌性障害の症例研究,精神医学34(9),p965-971,1992 7)荒木 光:空間恐怖を伴う恐慌性障害の文化的特徴,研究助成報告集(2),p5-10,1989 8)加藤正明 他編著:精神医学事典,弘文堂,p569,1985
|
||
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|